海堂くんが部長になって、桃城くんが副部長になった。正直なところ、そのときは、あまり納得していなかった。今となっては、もちろん海堂くんが部長らしいし、桃城くんが副部長らしいよね、と思っている。でも、当時はどちらかに別の人の名が挙がるだろうと思っていたから・・・。

荒井将史くん。
私としては、彼が部長になるんじゃないか、って思っていた。

たしかに、荒井くんは海堂くんや桃城くんと違って、去年は正レギュラーじゃなかった。それでも、実力はある方だし、何より努力家だ。それに、後輩の面倒見もいい。まさに、部長にピッタリだと思っていた。
・・・昔は、素直じゃなかったり、取っ付きにくそうな印象だったりと、私も苦手なタイプだった。今でも素直じゃない部分はあるけれど、以前に比べればずっと優しい先輩へと成長し・・・。私も頼れる部員の1人だと思うようになった。

だけでなく。
私にとっては、それ以上の存在になっていた。その欲目もあったかも知れない。でも、やっぱり、荒井くんが部長、って似合うと思う。
と言いながらも、荒井くんの部長姿を想像すると、どうも可笑しい。その責任の重さに動揺して、焦ってしまう荒井くんが頭に浮かぶ。・・・そんなところも可愛いと思うけど。

じゃあ、今度は副部長に!と思ったんだけど、それもちょっと違った。
結局、荒井くんは何の役職にもつかず、陰でこの部活を支えてくれている、No.3的な存在が合ってるんだと私は思う。だから、やっぱり、今のままがいいんだよね。

なんてことを考えていると、早速、No.3の彼から相談を持ちかけられた。



、ここらにある予備のラケットのことなんだけど・・・。」

「うん。」

「もうちょっと新しい物って用意できねぇのか?」

「うーん・・・、どうだろう。竜崎先生に相談してみないと・・・。」

「そうか・・・。」

「どうしたの?予備のラケットが必要だったの?」

「まぁ・・・な。」



少し恥ずかしそうに頭を掻きながら、そっぽを向いて、荒井くんは事の次第を話してくれた。
こういうところが素直じゃないなって思うんだけど、今となってはそれも可愛く見える。・・・私ってば、重症だね。
なんて考えると、少し笑いそうになってしまって慌てたけど・・・。どうせ荒井くんはこっちを見てないから、気付かないはず。だったら、少しぐらい笑顔になっちゃってもいいかと思いながら、荒井くんの話を聞いていた。



「もうすぐ、新入部員が来るだろ?全員がすぐにラケットを用意できるとは限らねぇから、予備を使わせることになるが・・・。できれば、少しでも新しくて使いやすい物を貸してやりたいだろ?それに・・・・・・。」

「それに?」



荒井くんが更に気まずそうに言い淀む。



「・・・・・・まぁ、そんな奴は今の2、3年には居ないだろうが・・・。古いラケットをイタズラに使って、新入部員に迷惑をかけちまってもいけねぇからな。」

「ふふ、そうだね。じゃあ、竜崎先生に相談しておくよ。」

「お、おう。悪いな。」



・・・なるほど。去年、自分たちが越前くんにやったことを思って、言ってるんだね。たしかに、あれは酷かったけど、それからみんな反省したんだから。そんなに気にする必要はないのに、とまた笑いそうになっちゃった。

その日、部活終わりに相談してみたけど・・・・・・。残念ながら、限りある部費の中から、予備の方にまでお金をかけるのは難しい、とのことだった。でも、優しい竜崎先生は、OBの方々に比較的新しいけれど、もう使わない物などがないか、聞いてみると話してくださった。
次の日、早速それを荒井くんに伝えた。



「そっか・・・・・・、そうだよな・・・・・・。」



そう言った荒井くんは、少し残念そうだった。それを見て、私の心が痛まないわけないじゃない・・・!



「ゴメンね・・・・・・?」

「な、何言ってんだよ・・・!の所為じゃねぇんだから・・・!!」



慌ててフォローする荒井くんを見て、優しいなぁって思った。・・・・・・本当、荒井くんってば可愛い。

でも、やっぱり荒井くんはそれだけじゃない。落ち込んでいたように見えて、自分にもできることはないか、しっかりと考えてくれていたらしい。
それに私が気付けたのは、それから数日後・・・・・・荒井くんが何本かのラケットが入った段ボール箱を持って来てくれたときだった。



「それ、どうしたの?!」

「2、3年でも使わなくなった物があるだろうと思って、持って来てもらった。」



荒井くんが部室に置いた箱を覗くと、グリップテープの余りなども入っているのが見えた。
そんな私の様子を見て、荒井くんは何を勘違いしたのか、苦笑いしながら言った。



「さすがに、あまり数は集まらなかったけどな。」

「ううん!そんなことないよ!!ありがとう!」

「どうせ使わなくなった物だ。譲ってくれた奴らも、むしろ処分に困っていたみたいだからな。気にしなくていいと思うぞ。」

「そうかも知れないけど・・・。でも、荒井くんはわざわざみんなに聞いてみてくれたんだから、やっぱりお礼を言っておかないと。だから、ありがとう。」

「あぁ・・・。」



そう言って、また荒井くんは顔を逸らし、頭を掻いていた。
もう・・・思わず惚れ直しちゃう。

でも、みんなもよく持って来てくれたよね!と、甚く感動する。やっぱり、みんなもこの部が大好きなんだなぁーと思っていると、前に荒井くんと特に仲の良い2人が見えた。
そうだ、彼らもきっと協力してくれただろうから、お礼を言っておこう。



「池田くん、林くん!」

「おう、。」

「どうした?」

「あのね、荒井くんがラケットとかを持って来てくれたんだけど・・・。2人も荒井くんを手伝ってくれたんじゃないかなーっと思って・・・・・・。」

「あぁ、そのことか。悪いけど、俺は何も提供できなかったんだよなー・・・。」

「俺もグリップテープだけ。」



2人は顔を見合わせ、苦笑いをする。でも、何よりもその気持ちが嬉しい。それに、林くんはグリップテープを譲ってくれたんだから・・・。



「そんなに都合よくあるとは限らないもん、仕方ないよ。でも、林くんはわざわざ持って来てくれたんだよね!ありがとう。」

「いや、それが・・・・・・。」



またしても、林くんが苦笑いをした。どうしたのかと思っていると、隣の池田くんが説明してくれた。



「コイツ、荒井に聞かれて、余ったグリップテープがあると思う、って言ったっきり、全然持って来なかったんだよ。」

「だって、忘れるときだってあるだろ?!」

「でも、最終的には持って来てくれたんじゃないの?」

「違うんだよ。結局、荒井がコイツの家まで取りに行ったんだ。」

「たぶん、俺みたいな奴、他にも何人かは居たと思うぜ・・・・・・。」

「そう・・・・・・。でも、ありがとね。話も聞かせてくれて、ありがとう。それじゃ!」



池田くんと林くんの話を聞いて、胸がジーンとした。その話を聞いて、荒井くんの姿を思い浮かべると、今度はキュンとする。・・・・・・そんなに荒井くんは頑張ってくれたんだ。だったら、私もできることをやろう。
そう思って、池田くんと林くんにお礼を言うと、急いでまた部室に戻った。



「とにかく。私でも、グリップぐらい巻き直せるよね・・・!」



私は荒井くんが持って来てくれた箱と向かい合った。
まず、テープがどれだけあるか、確認しよう。大体ラケット何本分か、計算しなくちゃ。
それから・・・・・・、譲ってもらったラケットの中でも、グリップがまだ綺麗そうな物とそうでない物とに分ける。
・・・・・・ついでに、他に直した方がいい部分もあるか、チェックしておこう。
そんなことをしていると、誰かが部室に入って来た。



・・・・・・?」

「あ、荒井くん・・・!!」

「何やってるんだ?」

「え〜っと・・・・・・グリップを巻き直そうかと思って。あと、ガットとかフレームとかのチェックも一応・・・・・・。」



突然荒井くんが来たことに動揺した私は、いつもの荒井くんみたいに少し照れながら答えてしまった。・・・・・・って、“いつも”は荒井くんに失礼だね。



「そんなに急ぐことはないだろ?」

「まぁね。でも、池田くんと林くんから、荒井くんがどれだけ頑張ってくれたのかを聞いたら、どうしても気持ちが先走っちゃって。」

「アイツら、余計なことを・・・・・・。」



ほら、やっぱり。また恥ずかしそう。
目を逸らし、そう呟いた荒井くんを見て、代わりに私の照れは無くなった。



「余計なんかじゃないよ。私は良いこと聞けた、って思ったんだから。本当、荒井くんは、いつも頑張ってくれてるよね。」

「そんなことねぇよ・・・。お前の方が頑張ってるんじゃないのか?」

「ううん、そんなことない。私、荒井くんが部長になるんじゃないか、って思ってたぐらいんだんだよ?」

「そんな柄じゃねぇって。」



私が今まで思ってきたことを言うと、荒井くんは自分で苦笑いをした。荒井くん自身も、自分には合っていないと思うみたい。



「たしかに、今となっては、荒井くんは部長よりも、陰で支えてくれる人なんだって思ってる。でも、私はそれを知っていたいの。」



だって、私はマネージャーだから。・・・そういう意味もあるけど、それだけじゃないのは言うまでもない。だから、私はあえて、笑顔でそこまでを言い切った。
すると、また荒井くんは恥ずかしそうな顔をしながら、返事をしてくれた。



「・・・ありがとう。努力は人に見られるもんじゃないと思ってるが、になら見ていて欲しい。むしろ、認められたい。だって・・・・・・その・・・俺は、お前が好きだから・・・。」



・・・・・・・・・・・・。



「えぇっ?!本当に?!!」

「あぁ・・・。」



まだ少し照れている荒井くんだったけど・・・・・・。今度ばかりは、私の照れが無くなることはなかった。



「そ、そ、そんな・・・・・!」

?」



あまりに私が挙動不審になったことで、荒井くんは不思議そうに私を見て、少し首を傾げた。
・・・・・・あぁ、そんなカッコイイ顔見せないで!!いや、でも、見たい・・・!!
どんどん熱くなる顔を、思わず両手で覆った。



「わ、私も・・・・・・好き、だよ?」

「本当か?!」



私は顔を覆ったまま、コクンと頷く。もう、声さえ上手く出ない・・・・・・。
すると、さっきまでの立場とは逆転し、代わりに荒井くんの照れが無くなっていったようだった。だから、荒井くんがいつもの調子で私の名を呼んだ。



。ありがとう。」

「・・・こっちこそ、ありがとう。」



そろそろと手を退ければ、そこには爽やかな笑顔を向けてくれている荒井くんの顔があった。
あぁ、やっぱりカッコイイ。そう思うと、また顔が熱くなるけど、私も自然と笑みが浮かんできて、2人で微笑み合った。
・・・・・・そんなところに、池田くんと林くんがたまたまやって来て、今度は2人で焦ることになったのは、また別の話。













 

まさかの荒井夢、第2弾!!(笑)好きなんですよね、荒井くん。むしろ、荒井サマ(笑)。
ふいに荒井夢が書きたくなって・・・・・・。本当に、私は「荒井くんが部長になってほしい!でも、やっぱり柄じゃないか・・・(笑)」と思っていたので、それを書かせていただきました。

荒井くんは、本当いい子だと思います(笑)。そして、カッコイイ男です。池田くん&林くんも然り、です。
まだまだ書き慣れませんが、またいずれ・・・・・・(笑)。忘れた頃に、荒井夢!そんな感じでやっていきたいと思います(←)。

('10/01/03)